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東京地方裁判所 昭和44年(ワ)8097号 判決

以下は、判例タイムズに掲載された記事をそのまま収録しています。オリジナルの判決文ではありません。

〔判決理由〕一、(責任原因)

(一) 被告が加害車を保有していること、亡誠および訴外増田がともに被告の公務員たる自衛官であることならびに訴外増田がその公務として加害車を運転中本件事故を惹起したものであることは当事者間に争いがなく、また<証拠>を綜合すると、次の事実が認められる。

(1) 亡誠および増田は、当時公務として他の数名の隊員とともに中野八郎助教の指導下に、加害車を使用して、公安委員会の大型自動車運転免許を有する者を対象とする自衛隊独自の免許(陽内では青免と呼称される)を取得するための特技装輪車訓練を受けていたが、事故当日は右訓練の最終日にあたり営外での訓練後、中野助教が担当の訓練生を乗せた加害車を運転して営内に帰り、更に洗車のため本件事故現場である洗車場まで運転して来た。右洗車は加害車を使用して訓練を受ける隊員全員がこれに当ることになつていた。

(2) 右洗車場は、コンクリート造り一五〇号(当時六二号)隊舎の整備場南側出入口(幅5.4米)に接した屋外に設けられ、間口一一米、奥行七米の矩形で表面はコンクリート舗装され、右舗装面は南西側から北東側に低く、さらに北側を最低部として勾配がつけられており、右勾配は平均二度足らずである。洗車場のほぼ北側隅寄り、右整備場南口東端の柱から東側へ1.25米離れた地点に水道栓がコンクリート面に直立して設けられている。洗車場南東面は幅員約七米の非舗装道路に接し、さらにその南東側は旧六一号隊舎との間に若千の空地があり、また洗車場南西側も空地に接している。

(3) 右訓練期間中は訓練を受ける隊員が交代で加害車の整備等の当番に当つていたが、当日は増田がその当番であつたため、洗車場において同人が洗車に必要な加害車の運転に当り、そのためにはこれを誘導する者が必要であつたので、同人の要請により亡誠がその誘導に当ることとなつた。

(4) まず、増田は、加害車の前部を北東方向に向けて洗車場に乗入れて加害車の外廻りの洗車を済ませ、次いで加害車の荷台を洗うべくその後部を前記水道栓の方に向けるため、亡誠の誘導で加害車を洗車場南西側空地まで約一二米後退させ、さらに洗車場南東側の前記道路を超えて前記空地まで約18.5米右前方に前進させ、そこから再び亡誠の誘導で加害車後部水道栓および前記整備場南口東端の柱の方向に向けて、時速約三キロの速度で後退させはじめたが、増田は、加害車を約一二米後退させてその後部が洗車場に乗り始めるあたりから運転席側(右側)扉を開いて上体を乗り出すようにしながら後方を向き、右後車輪と右柱とを対比注視しつつ後退させた。

(5) 亡誠は、加害車が後退しながら洗車場に乗入れて来る際、右整備場南口の中央部の扉レール上に、その右側に居た大畠と並んで立ち、「オーライ、オーライ」と声を掛けていたが、加害車の右側面の線が右柱の線に沿つた状態で加害車が後退し、その右後端と柱との距離が約1.2米に近付いた頃、加害車後方にまわつて「ストップ」と二回続けて声を掛け、停止しかかつていた加害車後板によじ登ろうと足をかけたところ、さらに加害車が後退を続けたため、急ぎこれを逃れようとしたが間に合わず、加害車右後端の後板と柱の間に胸部を挾まれた。

(6) 増田は右のとおり右後輪と柱とを注視していたため亡誠の位置、動作を認識しないまま後退し、誘導中の亡誠の「ストップ」の声を加害車の後方から聞いて間もなく車を停止させたが、その間に加害車はストップの声をかけられた位置より更に一米以上後退して亡誠を車と柱の間に挾み込んだ状態で特に抵抗も感じないまま停止した。

(7) 右状態を目撃した大畠は、直ちに加害車運転席脇に駈けつけ、増田に対して加害車を前進させるべく指示し、増田は車を前進させる措置を採つたが、同人は当初から洗車場の勾配に意を用いていなかつたこともあつて、サイドブレーキを操作しないでいわゆるフート発進させたため、加害車は前進の操作にかかわらず、一旦勾配に応じて幾分後退した後に前進し、このため亡誠の胸部は更に強く圧迫され、よつて本件事故に至つた。

(8) 本件加害車は、トヨタ五一年型の旧型車ではあつたが、特別に運転に支障あるほどの構造上の欠陥ないし機能上の障害は認められなかつた。

(二) ところで原告は自賠法三条の適用を主張するが、同条が適用されるためには、被害者たる亡誠が同条にいう「他人」に該ることを要するので考えるのに、右事実によれば、本件事故の際亡誠は職務上加害車の後退を誘導すべき立場にありかつ現に誘導中であつたのであるから、具体的に運転行為を担つていた運転補助者として同法三条所定の他人には当らないものと解すべきである。よつて原告主張の自賠法三条に基づく責任を求める点は失当である。

(三) 次に、原告は国家賠償法一条の適用を主張するが、前認定のとおり、増田の本件運転行為は営外での前記訓練を終えて帰営後洗車に伴つてしたものである。従つて、同人の行為の性質上権力作用には直接関係のない職務力であつて、このような行為は公権力の行使に該らないと解すべきであるから、同条を適用することはできない。しかしながら原告の主張事実は、同時に民法七一五条一項の要件を充足するから、さらにその適否を検討する必要がある。

二、(過失相殺)

前記のとおり訴外増田の過失は明らかであるが、一方、亡誠においても、前記認定のとおり、加害車後退の誘導の任にありながら、その停止の合図はしたものの、同所は前記のとおり下り勾配でありかつ一般に後退中は前進に比しブレーキの利きが悪いのであるから、停止の合図から停止に至るまでにはある程度の距離を要することを考慮して行動すべきであるのに、加害車が直ちに停止するものと軽信し、加害が停止する前に、しかも加害車後部と前記柱との間に充分な余裕のない状態において、あえて後部荷台に登ろうとして後板にとりついた過失が寄与している点は否定できない。しかし運転補助者としてこの過失は相当重大といわなければならないから、本件賠償額算定に当り五割程度、右過失を斟酌するのが相当である。(倉田卓次 浜崎恭生 鷺岡康雄)

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